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学習ノートEMANの物理学◆慣性モーメントテンソル

元記事
この元記事に関しては、著者(EMANさん)自身が修正の必要性を表明されています。(関連スレッドのNo.6171参照)

慣性モーメントテンソルの成分計算

元記事では、慣性モーメントテンソルの式の解釈と、成分計算とが同時進行で行なわれています。とりあえず成分計算だけ切り出したものを読んでおいて、改めて元記事を読み直すと、より頭に入りやすいかもしれません。→ノート(慣性モーメントテンソルの計算)(PDFファイル)

なぜ角運動量ベクトルと角速度ベクトルの方向が異なると「変だ」と感じるのか?

「定義に忠実な関係式」セクション

これは驚きだ。 物体は、実際に回転している軸以外の方向に、角運動量の成分を持っているというのだろうか。 ちょっと信じ難いことだが、定義に従う限りはこれこそが正しい結果だと受け止めるべきである。 しかしなぜそんなことになっているのだろう。

私は当初、「不思議だな。どうしてだろう?」という気持ちと、「角運動量の定義を考えると、別に驚きでもなんでもない」という気持ちが混在していました。そこで、「そもそもなぜ『変だ』と感じるのか?」から考察してみました。

「角運動量ベクトルの非ω成分」と「慣性乗積」

「定義に忠実な関係式」セクションの末尾近く

これを「慣性乗積」と呼ぶ。 第 2 項のベクトルの内、ωと同じ方向のベクトル成分を取り去ったものであり、Lをωの方向からずらしている原因はこの部分である。

「慣性乗積の意味」セクション冒頭

慣性乗積というのは、 r方向を向いたベクトルの内、ω方向成分を取り去ったものであると言えよう。

(図の赤い矢印)

慣性乗積の意味するベクトル

ノート(慣性乗積)(PDFファイル)に示したとおり、「角運動量ベクトルの非ω成分」と「慣性乗積」とが対応するわけではないので、
読み手の混乱を防ぐという観点からは、修正したほうが良いように思われます。

L = mr×(ω×r) の作図

「定義に忠実な関係式」セクション

これにはちゃんと変形の公式があって、きちんと成分まで考えて綺麗にまとめれば、
L = mr2ω - m(r・ω)r
となることが証明できる。 有名な公式を使っただけである。

もし、この公式を使わずに考えるとどうなるだろうか?(この公式そのものの補足(PDFファイル)もあります。)

一般に、A × (B × C) について、B と C の張る平面を π とすると、B × C は π に垂直である。
A × (B × C) は、この B × C と再び垂直になるので、結局 π 上に戻ってくる(π と平行である)。
すなわち、π上で A に垂直なベクトルを選べばよい。

これを L = mr × (ω × r) に適用すると、L は ω, r と同一平面上に描くことができ、
かつ r に垂直なベクトルである。すなわち、下図のようになる。

以下、符号を考えると煩雑なので、図のような位置関係を前提に議論する。

ω と r のなす角を θ とすると、|ω × r| = |ω||r|sinθ より、
|L| = m|r×(ω×r)| = m|r||ω × r|sin90° = m|r|2|ω|sinθ
したがって、L の ωに垂直な成分(図の赤い点線)は
|L|cosθ = m|r|2|ω|sinθcosθ となり、元記事と同じ結果が得られる。

ちなみに、L の ω方向成分Lω
Lω = |L|sinθ = m|r|2|ω|sinθsinθ = m(|r|sinθ)2|ω|
この|r|sinθは、物体の回転軸からの距離であり、これを R とおけば
Lω = mR2|ω| となり、従来の慣性モーメントと角運動量の関係式が得られる。

「慣性乗積の意味」セクションの初めの図について

問題となるベクトルは、r方向のベクトル - (r・ω)r から ω方向成分を除いたものであって、
r自身からω方向成分を除いたものではないことに注意。
より正確な図は上に示したとおりだが、あえて - (r・ω)r などを書き込むと、下のようになる。

L を ω と r にいったん分解することが、本当にイメージの助けになるのだろうか?


角運動量ベクトルの非ω成分の解釈

「慣性乗積の意味」セクション

つまり遠心力による「力のモーメント N」に関係があるのではないか。

遠心力による説明を理解するためには、回転系の概念に習熟しておく必要があります。
いきなり回転系から入るのは私には厳しかったので、まずは慣性系で素朴に考えた場合の解釈を示します。

この記事を書いた時点では、「物体固定座標」の理解が不充分でした。現在、修正検討中です。

(1)慣性系での解釈

ある瞬間に、ある軸 ω のまわりを質点 m が回っていたとしても、
これを単にほうっておくだけでは、いつまでも同じ角速度のままで回転し続けてくれる保証はない。
そこで、「現状の回転をキープするためには、どのような力を m に加える必要があるか」を考えることにする。
なお、質点に力を加えるわけだから、角運動量が変化しても不思議はない。

この回転を保つためには、半径R = r・sinθ 、角速度 ω の等速円運動をさせればよいから、
m に加えるべき力(すなわち向心力)は |F| = mRω2 = mrω2・sinθ
の大きさで、軸のほうを向いていればよい。
これを、あえて原点まわりのトルク r × F として考えると、このトルクは大きさが
|r × F| = |r||F|sin(θ + 90°) = r・(mrω2・sinθ)・cosθ = mr2ω2sinθcosθ
で、画面手前を向いている。……(1)

ここでいったん計算を終えて、今度は
「このような運動が実現された場合、角運動量ベクトルはどのような変化を示すはずか」を考える。

L は、r および ω と同じ平面上で、r と垂直を保ちながら変化してゆく。
ここで、あくまで「たとえ話」だが、ベクトルを「目に見える矢印のような物体」だと考えてみる。
すると L の先端は、(r の反対側で)ωのまわりを等速で回っているはずである。

この L の先端の「速度」を求めてみよう。
Lの先端の軸からの距離は、「角運動量ベクトルの非ω成分」にほかならない。
すなわち |L|cosθ = mr2ω・sinθcosθ となる(元記事、あるいは前々節参照)。
Lの先端は、この半径で角速度 ω の等速円運動をするから、その「速度」は、大きさが
ω×(半径)= mr2ω2sinθcosθ であり、図の位置であれば画面手前を向いているはずである。
角運動量ベクトル L の先端の「速度」とは、とりもなおさず L の時間変化 (dL / dt) のことである。……(2)

(1)(2)を見比べると、質点に加えたトルク(r × F)と、角運動量の時間変化(dL / dt)とが、
大きさも向きも完全に一致していることが分かり、つじつまが合っている。

上の計算ではベクトル同士のなす角θを導入して計算したが、
外積の性質を用いてもっと抽象的に計算することもできる。

まず前提として、おおざっぱな表現だが、
角速度 ω で変化しているベクトル(★とする)の時間変化率「d★ / dt」は、「ω×★」によって計算される。

これが納得できれば、
(1)については r×F = r×(dp / dt) = r×(ω×p)
(2)については dL / dt = ω×L = ω×(r×p)
と、それぞれ書くことができる。これらを見比べると、
p に対して r および ω を前から掛ける(外積をとる)とき、どちらを先に掛けるかの違いである。
一般には両者は異なるが、この状況では等しいことが、以下のように示される。

ヤコビの恒等式により ω×(r×p) + r×(p×ω) + p×(ω×r) = 0
いま、ω×r = v により、第3項は p×v = (mv)×v = 0 となるので
ω×(r×p) + r×(p×ω) = 0
第2項に対して p×ω = - ω×p を用いた上で移項すると
ω×(r×p) = r×(ω×p)

(2)回転系での解釈

慣性系に対して角速度 ω を有する回転系で考える。

ω回転を保つべく向心力を加えたとき、慣性系では
L の先端は ω 軸のまわりを角速度 ω で回転するように変化するのだった。
すなわち L の先端は回転系に追従して回るので、 回転系で見れば Lの時間変化はゼロとなっているはずである。
これは向心力と遠心力とが釣り合ってトルクを打ち消しているためだと考えることができる。

もし、この向心力をかけなければ、今度は慣性系での L の時間変化がゼロとなるため、
回転系では L の先端がマイナス ω で回転して見える。
これは、外向きの遠心力だけが働いてトルクを与えているためである。
大きさに関しては向心力と全く同じ議論が成り立ち、ただ符号が逆になっているだけである。

この「回転系での解釈」はつじつまが合っているように見えるし、
元記事の趣旨もそういうことだと思うのだが、この描像は果たして正しいだろうか?

回転系においては質点の速度はゼロであり、したがって角運動量もゼロのはずである。
慣性系における角運動量ベクトルを、そのまま回転系に持ち込んで論じてはいけないと思うのだ。

回転系における角運動量変化の正しい描像は、以下のようになるのではないだろうか。
すなわち、向心力と遠心力とが釣り合っているときは、トルクが付与されないので、
はじめゼロであった角運動量はゼロのままである。
また、向心力をかけないときは、遠心力のトルクによって、
ゼロであった角運動量が画面奥向きにニョキニョキと伸びようとする。

このように、慣性系の L をそのまま回転系に持ち込むことはできないが、
その時間変化 dL / dt に関しては、計算結果は完全に一致する。
これを直感的に明らかだと感じる人もいるかも知れないが、
私にとってはあまり自明なことではないように思われる。

角速度ベクトルが変化することについて

「角運動量保存」セクション

これで角運動量ベクトルが回転軸とは違う方向を向いている理由が理解できた。 しかし大きな問題が残されている。 すでに気付いていて違和感を持っている読者もいることだろう。 外力もないのに角運動量ベクトルが物体の回転に合わせてくるくると向きを変えるのだとしたら、角運動量保存則に反しているのではないだろうか、ということだ。

大丈夫。 角運動量保存則はちゃんと成り立っている。 どうしてだろうか。 実は、角運動量ベクトルは常に同じ向きに固定されていて、変わるのは、なんと回転軸の向き の方なのだ!

遠心力という「見かけの力」が働く回転系において角運動量が変化することは、
慣性系において角運動量が保存されることと矛盾しない。

ただ、回転系において物体の得た角運動量 dL が、その後どうなるのか、理解しておく必要がある。

回転系で遠心力から画面奥向きにトルクを得た物体は、その方向に新たな角速度を得ることになる。
つまり、回転系から見ても、さらに別な方向に物体が回転し始めるため、
もとの回転系でいつまでもぐずぐずしていたら、物体から置き捨てられてしまう。
すなわち、物体は次々に、新たな軸を持つ回転系へと乗り換えてゆくのだ。
この乗り換えは、物体が得たばかりの角運動量変化 dL をちょうどリセットするように行なわれ、
新しい回転系では再び L = 0 となるである。

これを慣性系で見ると、外力が働いていないとき、角運動量ベクトルは保たれたまま、
角速度ベクトルが変化することになる。
すでに前節の考察から、画面手前向きのトルクをかけて初めて ω が保たれることが分かっているから、
このトルクをかけなければ、画面奥向きに ω が倒れ込もうとする。


(dω は実際には画面に垂直に奥向きである。)

これが各瞬間において次々に起こり、dω は常に L, ω, r の作る平面に垂直に生じるので、
結果として ω は 定ベクトル L のまわりをみそすり的に変化する。

なお、「ω が L のまわりをみそすり変化する」というのは、剛体では球状コマ・対称コマのみについて言えることであり、
非対称コマでは成り立たないことを注意しておく。

「回転軸」という語の意味

「角運動量保存」セクション

ここで「回転軸」の意味を再確認しておかないと誤解を招くことになる。

(中略)

「回転軸の向きは変化した」と答えて欲しいのだ。 ω とは物体の立場で見た軸の方向なのである。 上の例で物体は相変わらず z 軸を中心に回っているが、これを「回転軸」と呼ぶべきではない。 そう呼びたくなる気持ちは分かるが、それは ω が意味している方向ではない。 では客観的に見た場合に、物体が回転している軸(上で言うところの z 軸)を何と呼べばいいのだろう。 そんな心配は必要ない。 それこそ角運動量ベクトル L が指している方向なのである。

ここでの「回転軸」についての説明は、誤っているのではないだろうか?
一般に角速度ベクトルは、物体(慣性主軸)に対しても動くし、かつ、慣性系に対しても動く。

元記事に挙げられている例では、姿勢が変わることで慣性主軸の方向は変化したが、ω は変化していない。
これを「物体(慣性主軸)に対して ω が動いた」ということはできるが、 ω が z 軸方向であることに変わりはない。

ペンチの映像では、角運動量 L は画面に向かって下方向に一定であり、
ω は「ほぼ」下方向を向きながら、 L のまわりをうろうろしている(もし対称コマなら「みそすり」しているところである)。
ペンチが大きく姿勢を変えたときに、ω が急激に変化しているわけではないことに注意が必要である。

軸の固定により ω を一定に保った場合の解釈

「行列の意味するもの」セクション

 このように軸を無理やり固定した場合、今度こそ、回転軸 ω と角運動量 L の向きの違いが問題になるのではないだろうか。 先ほどは回転軸の方が変化するのだということで納得できたが、今回は回転軸が固定されてしまっている。 今度こそ角運動量ベクトルの方がぐるぐる回ってしまって、角運動量が保存していないということになりはしないだろうか。

 そのような問題は起こらない。 いつでも数学の結果のみを信じるといった態度を取っていると痛い目にあう。 この場合、計算で求められた角運動量ベクトル L の内、固定された回転軸と同じ方向成分が本物の角運動量であると解釈してやればいい。 L と ω の方向は一致しているのだ。

軸受けが無かったときは、回転系で遠心力が角運動量変化をもたらすように見えても、
慣性系では回転軸自体が変化し、角運動量は一定なのだった。

これに対して軸受けがある場合には、軸受けからの力はれっきとした外力なのだから、
慣性系で角運動量が保存される必要はない。
単に、軸受けからもらったトルクの分だけ角運動量が変化する
(だからこそ ω が一定に保たれる)、で済む話ではないだろうか。
(すでに「角運動量の非ω成分の解釈(1)慣性系での解釈」で考察したのと同様である。)
「軸方向成分だけが『本物の』角運動量だ」と考える必要もなく、
軸受けの有無にかかわらず、慣性系において L は厳然として ω とは異なった方向を向いている
ということを認識することのほうが、むしろ重要ではないだろうか。

「行列の意味するもの」セクション

 これについても同じことが出来る。 物体が姿勢を変えようとするときにそれを押さえ付けている軸受けが、それに対抗するだけの「力のモーメント」を逆に及ぼしていると解釈できるので、その方向への角運動量は変化しないと考えておけばいい、と言えるわけだ。

これは回転系の視点からの説明だと考えられる。
遠心力のトルクをちょうど打ち消すようなトルクを、軸受けが都合よく与えてくれるために、
dL / dt は生じず、剛体は同一の回転系にいつまでも留まってくれる。
ただし、すでに考察したように、回転系での角運動量はゼロであることに注意が必要である。

元記事の論理展開では、軸受けが無い場合には慣性系で、軸受けがある場合には回転系で、
というふうに論じ分けることにより、いずれも角運動量保存が成り立つことになっている。
しかし、両者は「軸受けからの外力の有無」という決定的な違いがあるのだから、
そうまでして角運動量保存を死守する必要はないと思われる。

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